ゆめビデオ

 リサは12歳の誕生日に、ゆめビデオを買ってもらいました。眠っている間に見た夢を、録画しておけるという画期的な商品です。喜ぶリサを見て、ママは小さな声で「ママにも時々、使わせてね」と言いました。

毎晩、リサはゆめビデオの録画をセットしてベッドに入りました。リサが録画したい夢はただひとつ。2組の佐藤くんの出てくる夢です。佐藤君は学校では目立たない男の子ですが、弟の野球の応援に行ったとき、キャプテンとしてチームをぐいぐい引っ張っている姿を見てびっくり。それ以来リサにとって一番気になる存在なのです。
 そして…、昨夜はとうとうリサの夢に佐藤くんが登場してくれたのです。

今朝は学校へ行ってすぐに親友の美夏に話しました。「えーっ、本当!!」「本当よ、始めの方見たらちゃんと写ってたもん」「じゃ今日見に行く!」。学校から帰ると、美夏が来るのを待ちかねて、ドキドキしながら再生ボタンを押しました。

白いユニホーム姿。マウンドから振り向いてナインに声をかける佐藤君。バッターボックスでの真剣なまなざし。佐藤君の打った白い球は、きれいな弧を描いて青空に吸い込まれていきました。
 そして仲良くお弁当を食べる二人の姿。笑い声。「今日勝てたのはキミのおかげだよ、ありがとう」といって右手を差し出す佐藤君。昨夜夢で見たシーンが次々と画面を流れていきます。美夏は「佐藤君ってこんなにかっこいいって知らなかったーー!!。私もファンになっちゃおうかな?」なんて言っています。

でも、何か違う。リサはそう思いながら見ていました。そう、初夏の日差しの熱さ。ちょっとつぶれたオムスビの味。握手したときのマメだらけの手の感触。紅くなった頬を冷やしてくれた夕暮れの風。そういったものが、このビデオには全く写っていないのです。なんだか自分じゃなくて、テレビドラマの中の人みたい。リサは思いました。

 明日はママにこの機械を貸してあげよう。ママは気がつくだろうか。女の子にとって一番大切なものが、このビデオには写らないってこと。