未来の冷蔵庫 冷子さん

201X年9月XX日午後3時。山村家。

「ただいまっ」

 ミノルは小学3年生。慣れた手つきで鍵をあけて、誰もいない家に入ると、ランドセルを放り出す。冷蔵庫の取っ手に触れると…

「おかえり、ミノル。手を洗った? 下の段にプリンが入っているから食べといてねー」
 いきなりのママの声に一瞬びくっとする。この新しい冷蔵庫は、取っ手に指紋センサーがついていて、誰が開けようとしているのかわかるらしい。ママが触ると、「3段目に賞味期限切れの豆腐があります」なんて言ったりするし、この間なんか友達のタケシが、「何か飲むものない?」って勝手に開けようとしたら、ピーピー甲高い音で鳴ってさ、開かないんだ。いい気味だよな。人の家で偉そうにするなっちゅーの。
 手を洗ってプリンを平らげると、ピンポーン! あっヤスヒロと遊ぶ約束していたんだった。冷蔵庫に向かって
「公園で遊んでくる!」
と叫ぶと、ボールを抱えて飛び出した。ママが帰ってきて冷蔵庫に触れば、ぼくのメッセージを再生してくれるんだ。
 

午後4時。

プルルル…。誰もいない部屋に電話のベル。

「はい、こちら山村です。ただいま留守に…」
留守録のメッセージが終わるのを待ちかねて、
「冷子さーん、冷子さーん!!」

 ママが電話で冷蔵庫を呼んでいるのだ。どこからともなく微かにカチカチと接続音がして、冷子さんが答える。

「はい、なんでしょうか、ママ」
「在庫を調べてちょうだい。ネギ、牛乳、リンゴジュース。」
「はい、ネギはあります。牛乳は300ml。リンゴジュースはありません」
「そう…今帰りなんだけど、今日はどっちのスーパーへ寄ろうかしら」
「Sスーパーは肉の特売日、Aマートでは日用品のセールがありますよ」
 ママは少し考えてから、
「じゃSスーパーのデータ、こっちのカーナビに送ってくれる?」
「わかりました」
「それと肉料理の良さそうなレシピもダウンロードしておいてね」
「わかりました」
  冷蔵庫がインターネットって、はじめは驚いたけれど、結構便利よねー。とママは独り言を言ってケイタイのスイッチを切り、車を出した。

午後6時。

 夕食の用意をしているママを冷子さんは全面的にサポートしている。
まず買ってきたもののバーコードを読みとって受け入れる。ちょっと面倒だが、これで賞味期限まで入力されるから、あとから役に立つ。
 そして画面に出たレシピを読み上げてくれる。えっと人参は…なんて野菜室を掘り返さなくても、材料はどこに入っているか一目瞭然。残り物のチェックをして、それを使った料理も提案してくれるし、忙しいときは宅配サービスのあるスーパーに注文もしておいてくれる。共働きの家だけでなく、高齢者や病気の時などにも助かるサービスだ。

 さて、家族団らんの夕食もすんで、深夜12時。
  ビールを飲みながらビデオで洋画を見ていたパパが、むっくりと立ち上がった。

「さて、もう1本飲んで寝るとするか…」
 冷蔵庫をのぞき込もうとすると、いきなり
「4本目です。今日はもうやめておきなさい」
  パパはぎょっとした。なぜオレがビールを飲もうとしたとわかるんだ。この冷蔵庫は人の心を読むのか。驚いた拍子に昔読んだSF小説を思い出した。「声の網」とかいう、コンピュータが世界を支配するストーリー。この家で一番えらいのは、もしかして冷子さん?…

 パパは急に酔いが回って、あわてて布団にもぐりこんでしまった。
 
 冷蔵庫のかげでほくそ笑むママ。「作戦成功」。

 ……

 家へ帰ってきて、まずとりあえず冷蔵庫を開けてしまう人、結構いるようです。料理や食生活に役立つ機能だけでなく、コミュニケーションツールとしての機能も備えて、家庭の中心として活躍する冷子さん、我が家にも一台欲しいものです。