辞書引きチャンピオン

 小学校のころ、国語の授業の一環として、毎年「辞書引き大会」というものがあった。プリントに印刷された数十の単語を国語辞典で引き、何ページの何段目に載っているかを書き込む、検索スピードを競うものだ。全校で一番早くできた人は、「辞書引きチャンピオン」として表彰されることになっていた。

 私はチャンピオン目指して練習を重ねた。しかし何度やってもクラスで真ん中くらいがやっとの成績だ。辞書は普段からよく使っているから、扱いには慣れているはずなのに、なぜだろう。ある時クラスでの練習中に手をとめて、あたりを見回してみた。そして重大な違いに気がついたのだ。みんな、ページ数を書き留めたあと、すぐに次の単語を引いている。内容を読んでいない。私は、その項目の内容を読んでから次を引いていたのだ。

 「なーんだ、そうだったのか。これはそういうゲームなんだ。」

 それからは内容を読まないように気を付けてやってみた。しかし引いた項目を読まずに閉じるのは、やはりもったいなくて、ついつい読んでしまう。辞書引きの成績は卒業するまで上がらないままだった。

 二十数年たって、コンピュータが一瞬のうちに辞書を検索してくれる、ありがたい時代になった。しかし、私の辞書引きは今でも時間がかかる。目的の項を読み終わると関連項目のリンクに飛ぶ。またそこから関連項目に飛んでぼやーっと眺めている。気がつくと遙か遠くまで漂流していることもある。この間は英和辞典で"tough as an ox" (雄牛のようにタフな)という熟語を調べたついでに、動物を例えに使ったイディオムを探してみた。検索すると何百も出てきて、気がつくと一時間が経過していた。

 辞書引き長時間耐久レースだったら、私はチャンピオンになれたかも知れない。